ラム

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ラムを知る

最終更新日:2023年11月25日
サトウキビ畑
サトウキビ畑

ラム酒はカリブ海諸島(西インド諸島)生まれの蒸留酒(スピリッツ)です。映画などでカリブの海賊が飲んでいる酒といえばラム酒です。現代でも主な生産地はカリブ海周辺の地域ですが世界各地で生産されています。ジン、ウォッカ、テキーラと並ぶ世界四大スピリッツに数えられています。

サトウキビの搾り汁や、搾り汁を煮詰めて砂糖を作った後に残る黒い糖蜜(とうみつ)を原料に発酵、蒸留、樽熟成して造られます。糖蜜は英語でモラセス(molasses)といい、ラム酒は「モラセス・スピリット」とも呼ばれます。

甘い香りと重厚な味わいが特徴で、ストレートでそのまま飲んだり、カクテルのベースとしても人気です。また焼き菓子などの風味づけとしても多用されています。

 

アルコール度数

40 〜 50%

※ 中には75%を超えるような非常に高い度数の銘柄もありますが、大半は40〜50%くらいです。

01ラムの種類

ラムには非常に多くのバリエーションがあり、様々に分類することができます。

製造法と風味による分類

ラムは発酵法や蒸留法の違いから、風味の軽い「ライト・ラム」、風味の重い「ヘビー・ラム」、その中間の「ミディアム・ラム」の3タイプに分類されます。

ヘビー・ラム

原料の糖蜜を自然発酵させ単式蒸留器(ポット・スチル)で蒸留した後に、内側を焦がしたオーク樽やバーボンで使った樽を使って3年以上熟成して作ります。強い風味と重厚な味わいが特徴です。風味が強いためカクテルのベースとしてはあまり使用されません。ストレートやオン・ザ・ロックでウイスキーやブランデーのように時間をかけて、ゆっくり楽しむのに適しています。

樽熟成によって濃い褐色になるため「ダーク・ラム」とも呼ばれますが、ダーク・ラムにはカラメルなどで着色したものもあります。イギリスの植民地で発展し、現在はイギリス連邦加盟国のジャマイカ、ガイアナが主な生産地です。

ライト・ラム

ライト・ラムはラムの中では最もクセがなくキレのあるドライな口あたりで風味がソフトです。ストレートはもちろん、カクテルのベースとしても最適です。
水で薄めた糖蜜を純粋培養酵母で発酵させ、連続式蒸留器(パテント・スチル)で蒸留した後に、内側を焦がしていないオーク樽やタンクで短期間熟成、もしくは熟成したものを活性炭で濾過します。これらによって、よりニュートラルなアルコールに近いスピリッツに仕上がり、原料に由来する風味が軽くなるのです。

ライト・ラムは熟成後の仕上げの違いによって異なる色のものがあります。濾過せず樽熟成による褐色が付いているものは「ゴールド・ラム」や「アンバー・ラム」と呼ばれます。樽熟成させておらず色が付いていないものや濾過により無色透明にしたものは「ホワイト・ラム」や「シルバー・ラム」などと呼ばれます。

19世紀に入って連続式蒸留機が登場し、キューバに工場を持っていたバカルディ社がこれを導入してライト・ラムが造られるようになりました。その後、キューバ、プエルトリコなどスペインの植民地を中心に生産地が広がり現在でもそれらの地域で造られています。

ミディアム・ラム

ヘビー・ラムと同様に原料の糖蜜を自然発酵させてアルコール化させますが、蒸留方式は銘柄によって単式蒸留のものと連続式蒸留のものがあります。蒸留後、2ヶ月〜3年未満の樽熟成をします。カラメルで着色したり、フルーツで香味付けしたりする場合もあります。ヘビー・ラムとライト・ラムをブレンドして作る場合もあります。ヘビー・ラムと比べて風味がマイルドですっきりとして飲みやすいです。ストレート、オンザロック、カクテルのベースにも使用されます。

色はウイスキーやブランデーに近い褐色のものが多く「ゴールド・ラム」や「アンバー・ラム」などとも呼ばれます。旧スペイン植民地のプエルトリコ、フランス系の植民地で発展し現在のフランスの海外県であるマルティニーク島やグアドループ島が主な生産地です。

 

色による分類

ラムはその色味から「ホワイト・ラム(もしくはシルバー・ラム)」「ゴールド・ラム(もしくはアンバー・ラム)」「ダーク・ラム」の3タイプに分類されます。この3分類はあくまで色味による分類ですが、製法・風味による「ヘビー」「ミディアム」「ライト」の分類とほぼ重なります。ただし「ライト・ラム」には「ホワイト」だけでなく「ゴールド」の色味をしたものもあって、完全に一致するわけではありません。 

ホワイト・ラム

ホワイト・ラムは無色透明のラム酒でシルバー・ラムとも呼ばれます。「ライト・ラム」のうち樽を使わずタンクで短期間熟成したものや、樽での短期熟成後に活性炭によって濾過したものは無色透明となります。

ゴールド・ラム

ゴールド・ラムは薄い褐色をしたラム酒で、アンバー・ラムとも呼ばれます。2ヶ月から3年未満の樽熟成をした「ミディアム・ラム」や「ライト・ラム」のうち樽熟成後に濾過をしていないものはこの色になります。また「ダーク・ラム」と同様にカラメルなどで着色して造られるものもあります。 

ダーク・ラム

ダーク・ラムは濃い褐色をしたラム酒で、3年以上の樽熟成によって濃い色と風味が着いたものが多いです。「ヘビー・ラム」はこの色になります。他に、カラメルなどで着色したものもあります。 

 

原料による分類

ラムは原料の違いから「インダストリアル」「アグリコール」「ハイテストモラセス」の3タイプに分類されます。世界で造られているラムの9割以上がインダストリアル・ラムです。

インダストリアル・ラム

糖蜜
糖蜜(モラセス)

サトウキビの絞り汁から砂糖を抽出した際の廃棄物である糖蜜からラムを造る方法をインダストリアル製法(工業的製法)と呼び、これにより造られたラムを「インダストリアル・ラム」と呼びます。ラムが誕生した当初からの製法で造られたラムなので「トラディショナル・ラム」とも呼ばれます。

糖蜜は冷蔵保存が可能なため季節を問わずラムを製造することができます。

アグリコール・ラム

サトウキビジュース
サトウキビジュース

サトウキビの搾り汁を直接発酵・蒸留してラムを造る方法をアグリコール製法(農業的製法)と呼び、これにより造られたラムを「アグリコール・ラム」と呼びます。この製法は19世紀後半にフランス領植民地で確立しました。

インダストリアル・ラムは一年中生産可能なのに対してアグリコール・ラムはサトウキビの新鮮な搾り汁を必要とするためサトウキビの収穫期にしか生産できません。

サトウキビの風味がいきた香り豊かなラムに仕上がるのが特徴です。

アグリコール・ラムは1996年にAOC(原産地呼称統制)の認定を受けており、それ以降はフランス海外県のマルティニーク島で規定のサトウキビ品種を使って定められた発酵方法と蒸留方法で生産されたラムだけがその名称の使用を許可されています。

マルティニーク・ブラン(Martinique Blanc)

蒸留後3か月以上熟成した無色透明のアグリコール・ラム。ブラン(Blanc)とはフランス語で白を意味します。

マルティニーク(Martinique)

オーク樽で1年以上熟成したアグリコール・ラム。淡い琥珀色をしています。

マルティニーク・ヴィユー(Martinique Vieux)

オーク樽で3年以上熟成したアグリコール・ラム。ヴィユー(Vieux)とはフランス語で熟成を意味します。

ハイテストモラセス

アグリコール・ラムと同様に糖蜜ではなくサトウキビの絞り汁を原料に使います。ただし、絞り汁をそのまま原料にするのではなく加熱して水分を飛ばして造ったシロップであるハイテストモラセスを原料に使います。ハイテストモラセスは糖蜜同様に冷蔵保存が可能なため一年中生産可能です。アグリコール・ラムと同様にサトウキビの風味が生きたラムとなります。 

 

産地による分類

ラムは世界中で作られていますが、主な産地はラムが誕生したカリブ海周辺の地域です。それらの地域をかつて植民地として支配していた宗主国ごとに造られるラムには特徴があり大きく「イギリス系」「フランス系」「スペイン系」に分類することができます。

イギリス系

ジャマイカ、ガイアナ、バルバトス、トリニダート・トバコ、ヴァージン諸島、アンティグア、セントルシアなど。英語で「RUM」と表記されます。

骨太で重めな味わい、口当たりは軽くマイルドなタイプが多いのが特徴です。

スコッチブレンデッドウイスキーの製法を応用して、単式蒸留器と連続蒸留器でそれぞれ造られたラムをブレンドしています。

フランス系

マルティニーク島、グアドループ島、ハイチ、モーリシャス島、レユニオン島など。これらの地域のラムはフランス語で「RHUM」と表記されます。

アグリコール・ラムが多く、サトウキビ本来の風味を活かし、香り豊かで繊細な味わい、香りが甘くても口当たりはシャープなタイプが多いのが特徴です。

ブランデー、特にコニャックの製法を踏襲しており、熟成年数の異なるラム酒をブレンドさせることで、風味を造ります。ブレンドした最も若いラム酒の熟成年を、ラベルに表記しています。

スペイン系

スペイン系のラムはスペイン語で「RON」と表記されます。ロンと読みます。大陸系と島系とで特徴が異なります。

大陸系

ベネズエラ、グアテマラ、ニカラグア、パナマ、ペルーなど。これらの地域のラムはスペイン語で「RON」と表記されます。ロンと読みます。

ボディが厚く、しっかりとした甘みを感じるタイプが多いのが特徴です。

シェリーブランデーの製法をを踏襲しており、熟成もシェリー酒の手法と同じくソレラシステムを用いて造られています。

 島系

キューバ、プエルト・リコ、ドミニカ共和国など。

ライトな味わいが特徴です。

19世紀後半にドン・ファクンド・バカルディがキューバでバカルディラムを造ったのが始まりで、1960年のキューバ革命の際に亡命した造り手達によって周辺の国でも造られるようになりました。

 

その他のラム

フレーバー・ラム(フレーバード・ラム)

ハーブや果皮、香辛料などをラムに漬け込んだりして香り付けしたラムをフレーバー・ラムと言います。スパイスト・ラムとも呼ばれます。一般的なラムよりアルコール度数が低いものが多いです。

オン・ザ・ロックやソーダ割りにすればカクテルのような味わいで飲みやすいです。

 

ラムとよく似た酒

カサッシャ

ブラジルの国民酒。サトウキビの絞り汁を濁ったまま発酵させ単式蒸留する。ピンガとも呼ばれます。製法がラム酒と非常によく似ており、ラム酒の仲間と解釈される場合もありますが、ブラジルではカシャッサはラム酒ではないとされています。

アラック

アラックとは中東、インド、東南アジアにかけて造られている蒸留酒の総称で地域によって原料も製法も様々ですが、東南アジアで造られているアラックの中には糖蜜を原料に造るものがあります。

ジャワ島バタビアで造られている「バタビア・アラック」が有名でお菓子作りの際にもよく使われます。

甲類焼酎

主に糖蜜や酒粕などを原料にした発酵液を連続式蒸留器で蒸留して造られた焼酎です。ホワイト・ラムと作り方が非常に似ていますが、甲類焼酎は糖蜜だけでなくトウモロコシや麦などを原料に造った焼酎をブレンドしたものもあったり、物によって原料が異なります。また、日本の酒税法上アルコール度数は36%未満と定められているため、一般的な甲類焼酎は20%台のものが多くラム酒より度数が低いです。

 

02ラムの歴史

ラムの起源

大航海時代の地図

ラムの起源は諸説あります。16世紀初頭にプエルトリコを探検したスペイン人のポンセ・デ・レオンの一行が造ったという説、17世紀初頭にカリブ海の小アンティル諸島の東端にあるバルバドス島に移住したイギリス人が造り始めたという説が知られています。いずれにしても15世紀末以降にコロンブスをはじめとしたヨーロッパ人がカリブ海域の西インド諸島にサトウキビを持ち込み、砂糖の製造が行われるようになっていたことが下地となって、その糖蜜を使ったラム酒が造りが始まりました。

 

植民地争いと奴隷貿易の中で生まれ育ったラム酒

15世紀より前の時代にもヨーロッパでは砂糖が作られていましたが、ヨーロッパの気候はサトウキビの生産には適さず生産量は限られており、砂糖は高価な調味料でした。

15世紀半ばからスペインとポルトガルが東方貿易で富を得るために新たな領土を求めて競って航海に乗り出しました。その中で15世紀末にコロンブスが西インド諸島に到達したのを皮切りにヨーロッパ各国が南北アメリカとその周辺海域の島々を支配下に置こうと争いました。西インド諸島は当初はスペインが支配して、サトウキビの生産に適していた南米や西インド諸島の各地で奴隷を労働力に砂糖生産が拡大しました。16世紀にはポルトガルの支配するブラジルが最大の砂糖生産地でした。

17世紀に入るとイギリスやフランスが西インド諸島に進出していきます。17世紀半ば以降、砂糖の需要の高まりと共に西インド諸島はアフリカから連行した奴隷を働かせて砂糖を生産する大規模プランテーションが著しい発展をする砂糖革命と呼ばれる出来事が起こり、世界一のサトウキビ生産地に成長しました。特にイギリス領だったジャマイカがブラジルに変わって世界の砂糖生産の中心地となりました。

そうした中で生まれたラム酒は砂糖生産の拡大を支える奴隷貿易の一部に組み込まれるという暗い歴史を刻みました。具体的には船で西インド諸島からニュー・イングランド(現在のアメリカ合衆国北東部の地域で当時はイギリスの植民地)に砂糖や糖蜜を運び、代わりにそれを材料に造ったラム酒を積んで西アフリカに運び、代わりにそのラム酒を身代金として支払って黒人奴隷を乗せて西インド諸島に運び、西インド諸島ではその奴隷の労働力で一層砂糖の生産を拡大するという三角貿易の循環が構築されていたのです。砂糖の生産拡大と共にラム酒の生産量も増えていきました。

アンティグア島でサトウキビを刈り取る奴隷達 1823年
アンティグア島でサトウキビを刈り取る奴隷達 1823年

奴隷貿易に絡んだラム酒の生産は、砂糖の供給過剰による価格低下や一方的な課税に反発したアメリカの独立、さらには19世紀に入って奴隷貿易禁止が打ち出されるに至って終焉を迎えました。

 

そして現代へ

18世紀以降、次第に洗練された蒸留酒となっていったラムは次第に人気を集めていきました。

バカルディのボトル

19世紀半ば以降、連続式蒸留器の登場によってライト・ラムが造られるようになったり、イギリスに対抗するために大陸封鎖令が敷かれた影響で糖蜜が入手しずらくなったフランス領植民地ではアグリコール・ラムが生み出されたり、多様なラムが各地で生み出されていきました。現在、世界最大のラム酒のブランドであるバカルディが生まれたのもこの頃です。

20世紀に入って1920から1933年までアメリカでは禁酒法がしかれていましたが、その間にもニューヨークを中心にラム酒は人気を集めました。その後、第二次世界大戦時にイギリスからのジンが手に入りづらくなった際もラムは安定して供給されたことから一層人気が高まりました。そしてカクテルのベースとして、アメリカから世界へ人気が広まっていき世界的なスピリッツとしての地位を固めました。

2003年以降、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの大ヒットの影響で、イギリスやアメリカをはじめとして世界的にラムの消費量が伸びました。それに伴ってラムがベースの「モヒート」などのカクテルがブームとなり、スタンダードなカクテルとして定着しました。

 

03ラムという名前の由来

ラム(rum)という名前の由来は諸説あります。

17世紀初めにバルバドス島で糖蜜から造られた酒は焼けるような強烈な味だったことから「キルデビル(悪魔殺し)」と呼ばれていましたが、ラムを飲んだ原住民が酔って興奮しているのを見たイギリス人が「ラムバリオン(rumbalion)」(イングランドのデヴォン地方の当時の方言でどんちゃん騒ぎの意味)と表現したのが元になっているという説が主流です。17世紀中頃のイギリスの文献には「ラムバリオン」や「ラムパッション」という名前で記録が残っています。また、当時の船乗り達の間では「ラムボーリング」の呼ばれていたとも言われています。

これらの言葉が短縮されて「ラム」になったとされています。

ラム全般

ライト・ラム

ホワイト・ラム

ダーク・ラム

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