ジン

ジンを知る

ジンは大麦麦芽・ライ麦・トウモロコシなどの穀物を糖化・発酵・蒸留して造ったスピリッツにジュニパー・ベリー(Juniper berry、セイヨウネズの球果)などの草根木皮を加えてさらに蒸留することで香味付けしたお酒です。松ヤニのような香りが特徴的ですが、これがジュニパー・ベリーの香りです。

世界4大スピリッツのひとつに数えられ、大量生産によっ一般大衆が買えるようになった初めての蒸留酒です。日本の酒税法上はスピリッツ(蒸留酒)に分類されています。

ジンのなかでも主流の「ドライ・ジン」は無色透明で蒸留酒の中では比較的味のクセがないことと、アメリカのカクテルブームと共に広まったためカクテルの材料として多用されています。

カクテルの材料としてだけでなく、ソーダ割やロックやストレートでも飲まれます。

ジュニパー・ベリー(西洋杜松の実)

01ジンの種類

ジンは生産国と製造方法によって「ドライ・ジン」(ロンドンタイプ)「ジュネヴァ・ジン」(オランダタイプ)「シュタインヘーガー」(ドイツタイプ)の大きく3つに分類できます。

ドライ・ジン

現在、ジンの多くはドライ・ジンで、一般的に単にジンというとドライ・ジンのことを指します。

19世紀前半に開発された連続式蒸留機によってそれ以前のジンよりも純度の高いスピリッツとして誕生しました。

ライトでキレのある味が特徴です。ドライというのは乾燥という意味ではなく辛口であることを表しています。カクテル・ベースに適しています。

ドライ・ジンの生産工場の大半がイギリスの首都であるロンドン市内にあったため「ロンドン・ジン」「ロンドン・ドライ・ジン」とも呼ばれますが、産地に限らず「ロンドン・ドライ・ジン」と表記できます。ロンドンに蒸留所が少なくなった今でもこの呼び名は続いています。

 

ジュネヴァ・ジン
オランダのスキーダム市にあるノレット蒸溜所

ジュネヴァ・ジン(Jenever)はジン発祥の地であるオランダで伝統的な製法で造られたジンです。

ドライ・ジンと比べて濃厚な香りや味が特徴です。麦芽の香りが生きたやや重厚な風味のためカクテル・ベースとしてではなくボトル毎冷やしてストレート飲むのが好まれています。

ジュネヴァはジンの由来であるジュニエーブルという薬酒の名前がスイスの都市ジュネーブと混同されジュネヴァ(英語読み)と変形したものです。

オランダでは「イエネーファ・ジン」と呼ばれていますが、イエネーファはジュニエーブルのオランダ読みです。

「オランダ・ジン」「ダッチ・ジュネヴァ(Dutch Jenever)」「ホランズ(Hollands)」「スキーダム(Schiedam)」と呼ばれることもあります。

2008年にEUのAOC(原産地呼称保護)の指定を受け、ベルギー、オランダ、フランス、ドイツの特定の地域で製造されたもののみがジュネヴァ・ジンを名乗ることができます。

 

シュタインヘーガー
シュタインハーゲン市

シュタインヘーガー(Steinhäger)はドイツのシュタインハーゲン市で独自の伝統的な手法で造られている蒸留酒です。生のジュニパーベリーそのものを発酵させてお酒にしてから蒸留して造られます。

ジュニパーベリーを香味付けの材料として使う他のタイプのジンとは根本的に製法が異なっていますが、ジンの一種とされています。

香味が穏やかでドライ・ジンとジュネヴァ・ジンの間くらいの風味で飲みやすいのが特徴です。

 

その他

■ プリマス・ジン

プリマス・ジン(plymouth gin)は軍港があることでも知られているイングランド南西部のプリマスで造られています。現在、プリマスにある蒸留所はブラックフライアーズ蒸留所のみで、1793年の操業開始以来この場所で作られています。香りが強いのが特徴です。

プリマス・ジンと呼ばれるのは事実上1ブランドのみで、2022年現在はフランスのPernod Ricard社がこのブランドを所有・販売しています。

以前はEUのPGI(地理的表示保護)の指定を受けていましたが、Perinod Ricard社は2015年2月にこの保護を手放しました。

プリマス・ジン蒸溜所

■ オールド・トム・ジン

ドライ・ジンが作られる以前の18世紀頃、ジンの雑味を抑えるために糖分を1〜2%加えて飲みやすくしたものが「オールド・トム・ジン」と呼ばれ大衆に愛飲されていました。ドライ・ジンの登場にともなって19世紀半ば以降は飲まれなくなっていきました。

「オールド・トム・ジン」の名前の由来はロンドンのジン販売店が発明した、ジンの販売機です。その販売機はオスの黒猫「オールド・トム・キャット」の看板の隙間にコインを入れるとその足元から甘いジンが出てくるしかけだったため、このように呼ばれるようになっていきました。

 

■ フレーバード・ジン

ジュニパー・ベリーの代わりに様々なフルーツなどで香り付けしたジンをフレーバード・ジンと呼びます。

スローベリー(Sloe berry、スピノサスモモの果実)を使ったスロー・ジン、オレンジ・ジン、レモン・ジン、チェリー・ジン、アップル・ジン、生姜の味を足したジンジャー・ジンなどがあります。これらは日本の酒税法上はスピリッツではなくリキュール類に分類されます。

02ジンの歴史 〜 オランダ人が生み、イギリス人が洗練し、アメリカ人が栄光を与えた

ジンの歴史は「オランダ人が生み、イギリス人が洗練し、アメリカ人が栄光を与えた」という言葉で語り継がれています。

ジンの原型となったスピリッツは16世紀にはすでにオランダで飲まれていたという説もありますが、1660年、オランダのライデン大学の医学博士だったフランシスク・シルヴィウス(1614/5/11 - 1672/11/19 Franciscus Sylvius)が利尿・健胃・解熱の効果があるジュニパー・ベリーをアルコールに浸して蒸留し「ジュニエーブル」(Jenever)という熱病の薬用酒を発明したのが世界に広まることになったジンの始まりと考えられています。

フランシスク・シルヴィウス

当時オランダは東南アジアや南米など各地を植民地としてオランダ海上帝国を築いていましたが、環境の異なる土地では熱帯性の病気にかかる者が多く、その薬の研究が盛んに行われておりジュニエーブルはそうしたなかで発明された薬でした。

ジュニエーブルはライデン市内の薬局で販売されました。爽やかな香りと値段の安さから人気を得て、オランダを代表する国民酒として愛飲されるようになりました。当時はジュニエーブル・ワインとも呼ばれていました。

 

1689年にイングランド王室の血筋を引くオランダ総督ウィリアム3世(ウィレム3世)がイギリス議会と手を結びイングランド王だったジェームズ2世を追放し王位に突きました。名誉革命と呼ばれる出来事です。

ウィリアム3世は反フランス政策の一環でフランスからの蒸留酒の輸入を禁じ、国産の穀物でのジュニエーブル生産を奨励しました。それまでは制限されていた蒸留酒の製造が誰もに認められたことで、イングランド国内でジンの生産が一気に拡大し、ジン大国と言える状態になりました。

この過程で「ジュニエーブル(genever)」がスイスの都市「ジュネーブ(Geneva)」の綴りと混同され、さらに短縮された結果「ジン(gin)」という呼び名が生まれたようです。

 

18世紀前半のロンドンでは、ジンがお茶やミルクより安く手に入るため貧しい人々の間で水の代わりに飲まれるほどにジンが大流行して「ロンドン市民の主食はジン」とまで言われる状況となり、街に泥酔者が溢れて社会問題化しました。

「ジン横丁」1751年 ウィリアム・ホガース 

それに伴ってジンは労働者や庶民の酒、さらには不道徳な酒であって健全な者の飲む酒ではないというイメージが醸成されていきました。

この状況を受けて1729年にイギリス政府はジンの流通を抑える政策を打ち出しましたが、それがジンの密造・密売を引き起こすことになりました。

ロンドンで酒屋をしていたダドリー・ブラッドストリート(Dudley Bradstreet 1711–1763)が黒猫(Old Tom Cat)の木製看板の隙間にコインを入れると足元のパイプからジンが出てくる密売機を考案すると、同様の密売所が次々と広まりました。

ここで売られたジンは少量の砂糖を加えて飲みやすい甘口にしたもので評判をよび、この黒猫の看板に由来してジンは「オールド・トム・ジン」と呼ばれるようになっていきました。

その後、ジンの狂乱は18世紀中頃に起きた穀物の不作続きによる生産量の激減によってようやく下火となりました。

 

19世紀の産業革命の時代に入ると大量生産に適していてより純度の高いアルコールを蒸留できる連続式蒸留機という装置が開発され、これによって造られたジンは原料由来の風味のクセが少なくすっきりと洗練された味の酒に生まれ変わりました。それに伴い、従来からの単式蒸留器で造られた重く複雑な味のする「ジュネバ(オランダ・ジン)」と区別するために「ドライ・ジン(ロンドン・ジン)」と呼ばれるようになりました。

時を同じくしてジンの品質とイメージ向上に努める酒造家たちの努力により質の悪いジンを造る蒸溜所は淘汰されていきました。新たに生まれた上質なジンは、ジン・パレスと呼ばれる豪華に飾られた当時は最先端のバーで提供されるようになりました。そうしてジンに対する貧乏人の酒、不道徳な酒という悪いイメージは次第に払拭され、社交や娯楽の飲み物となっていきました。

 

19世紀半ばにイギリスからアメリカへのジンの輸出が解禁されると、新しい飲み物を追求するバーテンダー達にカクテルの材料として注目され、オールド・トム・ジンをベースにしたトム・コリンズなどのカクテルが生み出されました。

マティーニ

さらに20世紀に入って、禁酒法が敷かれたアメリカではジュースのように見えるカクテルが闇酒場で盛んに飲まれるようになりました。すっきりした味わいで無色透明のドライ・ジンがカクテルのベースとなるお酒として好んで使われるようになり、カクテルの王様と呼ばれるマティーニなどドライ・ジンを使った様々なカクテルが生み出されました。そうしてオールド・トムよりドライ・ジンが多く飲まれるようになっていきました。

1960年代以降、ウォッカの人気上昇によってジンがあまり飲まれなくなった時期がありましたが、1987年に発売されたボンベイ・サファイアがそれまで企業秘密が当たり前だった香味付に使うボタニカルのレシピを公開すると、ジンはボタニカルの酒として再評価され再び人気を取り戻しました。

2008年にロンドンのシップスミス蒸溜所が200年ぶりに蒸溜所免許を取得してジンの製造を始めると、ウイスキーの世界的な原酒不足という事情もあいまって大小様々な蒸溜所によるジン造りが活発化していきました。現在では生産者ごとに様々なこだわりを持って作られたジンがクラフトジンと呼ばれ、昔ながらのブランドとともに人気を集めるようになっています。

ジンを材料に使ったカクテル
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